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月の井酒造試飲会に行ってきました 2023.4.5

  • 2023/04/07
  • katidoki
月の井試飲会

「酒の勝鬨」ヤナギサワです。 4月5日、営業黒沼と月の井酒造試飲会へ行ってきた。会場は秋葉原にある飲食店「鶏喜鶏喜 – チョキチョキ」さん、さらには月の井酒造と「奥播磨」の銘柄で知られる兵庫県の下村酒造店との2蔵での合同試飲会という、経験にないスタイルでの試飲会であった。2蔵だけなら、サッと試飲終了と想定していたが、その見込みは会場に着いてあっさり覆された。なんと「月の井」は16銘柄、「奥播磨」は29銘柄、合計45銘柄という、とんでもないボリュームである。ただ帰る頃にはこの構成が素晴らしいものであったことを知るのである。 

月の井酒造試飲会
計45銘柄のお酒たち

試飲の前後に月の井酒造店 坂本直彦蔵元・専務取締役様、石川達也杜氏、営業課小沼広規様から、様々なお話をいただけたので、それらを踏まえてご紹介したい。 

石川達也杜氏
石川達也杜氏

月の井酒造店は茨城県大洗町に位置し、東京からは電車で水戸まで特急、そこからローカル線で約2時間程度の行程で到着する。数年前に水族館目的で行ったことがあるので、脳内でタイムリープして再現旅を妄想する。震災時は蔵のすぐ近くまで津波が迫っていたそうだが、蔵へは届かず無事だったそうだ。大洗は漁業と自衛隊基地が近くにあり、漁師と隊員が頼りの飲食店にとってもコロナは大打撃だったそうだが、ここ最近はにぎやかさも戻ってきたそうだ。 

最近の「月の井」を飲んだことがある人なら分かると思うが、まずアルコール度数や日本酒度を見て極端に高いことに驚くだろう。この数値は意図したものではなく、あくまで結果だという。使用する原料にはこだわるが、大洗のその年の気候をそのままにお酒に反映させる「授かる酒」という考えがあり、あえて酒質設計はしないという。 

今から3年前、広島の竹鶴酒造にいた石川杜氏が月の井酒造に移籍したことから酒造りが180度変わったという。当然冷蔵機能はあったが、あえて常温下での製造に戻し、温度をコントロールせず自然な発酵を促す。すると、もろみが生き物としての勢いが増し、酵母も鍛えられ、発酵力が上がりお米の溶けが増す。その溶け具合は通常酒粕として残る量は4割程度だが、「月の井」のお酒は2割程度というから、その発酵力の強さが分かるであろう。 

また、温度は上昇するだけでなく自然の放物線を描き、ナチュラルな発酵曲線になるそうだ。原料となる品種は固定して使用するが、その年気温・気候は異なることで、当然出来上がるお酒の数値も異なり再現性はない。ただそれが「月の井」の個性につながり、「大洗の酒」が生まれ育つのである。 

しかし、石川杜氏が移籍してきた1年目はとても不安だったそうだ。お酒の味も以前のものとは大きく異なり、今までのお客様からは賛否両論、なかなか伝えきれない面があったそうだ。ようやく3年目になって「月の井」の味が浸透してきたと胸を張る。 

今回、出品していたなかで一際目立つ存在が「和の月 生もとスパークリング」である。このお酒の作りを尋ねると、仕込配合を他のものとは大きく変えていて、麹は通常2割程度ところ全体4割使用したそうだ。すると、もっと早く発酵が止まると思っていたが、意外と発酵が止まらず甘さが残らなかったそうだ。この仕込配合には色々な可能性が秘めているのではないかという。 

またスパークリング日本酒は泡が無くなると美味しさも軽減するものだが、泡がなくても美味しいものを目指したそうで、お燗をすると不思議と酸が出てきて、結果、食べ物を呼ぶ最高の食中酒が出来上がった。このお酒は現在クラウドファンディング分(2023年04月27日まで)で先行販売しており、在庫が残ればもしかしたら酒販店にも入ってくるらしい。ぜひ、お燗を試したいところだ。 

温度管理をしないことが「月の井」の個性につながるひとつの要因であるが、蔵の個性を生み出すもうひとつはこのスパークリング酒にも採用されている「生もと」作りだという。ただ最近では「生もと」との名前だけが一人歩きしているのではないか、乳酸菌を添加しないことが「生もと」のお酒ではない。キレイな「生もと」にしようとすればできるが、それは本来の「生もと」ではなく、お米がとけてない、お酒になっていない、味がないだけの「生もと」ではないかという。「月の井」の生もとは、しっかり発酵し、複雑味もあるが、それが江戸時代から伝わる「お酒」であり、伝統をもっと知るべきだという。 

石川杜氏は「生もとをして良かった」といい、その理由を尋ねると、 

お酒は"嗜好品"ではなく"必需品" である

お酒は”嗜好品”ではなく”必需品” であることに改めて気づいた。昨今の華やかで飲みやすい日本酒も確かに美味しいかもしれないが、嗜好品としての味に仕上がっている。コロナ禍の時どうであったか? 嗜好品として求められていたお酒は結局必要とされなかった。必需品としての日本酒であればそうはならなかった。必需品としての日本酒は人々が生きる力となり、人とつながる」と、力を込める。 

さらには、「ひやおろし問題」にも言及し、昨今のまだ「ひやおろし」にならない時期にリリースされる状況を嘆き、本来なら蔵元同士が結託し、発売日などを設定するのが好ましい。伝統の価値を下げているのではないかという。 

全16銘柄を飲み終え、そのなかから「月の井 純米」と「月の井 純米 にごり」をお燗にしてもらったが、黒沼と顔を合わせ「これこれ」と、久々に求めていた日本酒に出会えた気分であった。「彦市」も含め大きく変革を遂げ、味も変わり、日本酒本来の味、大洗の酒を伝える「月の井」を、我々も多くの飲み手に伝えなければならないし、色々と考えさせられ、気付かされた濃密な時間であった。 

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