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「のぼり蔵」

ご存知の方も多いと思いますが、齋彌酒造店さんは創業当時から現在の傾斜地に建てられ、高低差が約6メートルある先ほどの一番上の精米所に米が運ばれて、酒造りが始まります。次に敷地内で湧き出す伏流水で仕込まれ、工程が進むにつれて下に移動していきます。登っていったお米が日本酒となって下に下りてくる仕組みです。この構造を諸白醸児氏こと東京農業大学教授の小泉武夫博士が、焼き物の「登り窯」に似立て「のぼり蔵」の命名したのはよく知られた話ですね。

実際に精米、洗米所から坂を徐々に降りていく途中で、仕込み水が湧き出る水場がありました。こちらの水は蔵のある新山の裾野から流れ湧き出るもので、鳥海山軟水系とは異なり中硬水だそうです。坂を降る途中の眺めも素晴らしく、上空にはシベリアへ帰っていく白鳥の群の姿や、いつの間にか晴れて美しくそびえる鳥海山が遠くに眺めることも出来ました。

また明治35年(1902年)に初代 齋藤 彌太郎氏により創業された当時のまま残る住宅・店舗・蔵など11棟が国の登録有形文化財に登録されています。薄いガラスが貼られたガラス戸を維持し続けるも大変だそうです。そして「雪の茅舎」という銘柄名は、蔵を訪れたとある作家が、雪の中に埋もれた茅ぶき屋根の農家が点在している景色を見たことに由来しています。

仕込み

続いて仕込み場に行きます。齋彌酒造店さんといえば

櫂入れをしない
濾過をしない
割り水しない

3つのしない・・・ことを、秋田の山内杜氏なぞらえ「三無い造り」と呼び、高橋杜氏のもと遂行する蔵元さんとして有名です。その仕込みの過程である1日目から17日目までのタンクのそれぞれを見ることが出来ました。最初は表面の凹凸がはっきりしていたものが徐々に平らになっていき、再びぶくぶくと泡が出たりと様々な表情をした酒の息吹きそのものを見つことができました。櫂入れをしない(撹拌をしない)からこそ見ることが出来るとても貴重な過程です。また、仕込みタンクは他では珍しい10℃程度で保たれ、低温でゆっくり発酵されています。そうすることによって、アルコール度数15%の原酒が産まれるそうです。因みに、高橋杜氏は仕込みにサーマルタンクを使用したくないそうで、絞った後のお酒の温度管理や、仕込み水専用にサーマルタンクが用いられているようでした。

酒母室は2つあり、速醸と山廃仕込みの部屋で分けられています。その山廃仕込みの酒母室では「秘伝山廃」の酒母が仕込まれています。その中をちょこっと覗かせていただき、香りを嗅がせていただきましたが、いわゆる山廃臭は感じられず、クリアなお米の香りでした。これは上手に乳酸が育っている証拠と、山廃は土壌が大きく影響するもので、地域で異なるものになるのは当然だとも言います。ただし一度汚染された場所では菌が健康に働かずなかなか元通りにならないので、徹底した掃除による環境づくりが一番大切だと言います。

麹、酵母

麹室は秋田杉を使用した木製の壁で覆われています。清潔に保つためにステンレスの壁を使用する酒蔵さんも少なくないですが、齋彌酒造店さんは湿度を保つことを最優先にする為に木造にしたそうです。麹室の中は温度30度、湿度30度に保たれており、壁の木が自然と湿度を調整してくれるそうです。また今季から数値で温度等を管理できる機器を導入したそうですが、逆に数値をあてにしすぎて上手くいかないこともあるそうで、やはり長年の経験からくる肌感が重要で、高橋杜氏は「酒は頭で作るんじゃ無い、工夫しろ」と言うそうです。

また、齋彌酒造店さんの特徴として、麹室で麹きりの作業は致しません。のちに登場しますが、麹きりは蒸し作業の一環でで行います。なので、一般の麹室で香る麹臭はしなくて、むしろ秋田杉のいい香りがしているくらいでした。またここで麹きりをしないのも木製の壁にした一因でもあるそうです。

齋彌酒造店さんでは全て自家酵母を使用しています。現在では11号まで自社酵母があるそうですが、試験管に収められている酵母も使用し続けていると、だんだんと劣化するものだそうで、その元株のマスター酵母があるのですが、こちらも自社にマイナス84度の保管冷凍庫を導入して管理しているそうです。一般的には県の研究機関などに預けるのものなのですが、自社管理とはこれまた驚きです。アルコール度数15%の原酒が作れるのも、この酵母あってこそのものだそうです。

搾り

出来上がったお酒を絞るのにはヤブタが使用されています。2台あるのは、毎日1タンクずつ仕込むので本来1台あれば良いはずですが、タンクによっては出来上がりが前のものに追いついて仕上がることもあり、その時は同日に絞る必要があるので2台置いてあるそう。そして、こちらの槽場もマイナス5℃で管理されており、夏場も冷蔵を止めないそうです。止めてしまうと、どうしても菌などが出てきて機器に影響が出てしまうからだそうです。

そしてこの圧搾機で絞った今年の「美酒の設計」を試飲させて頂きました。絞ったばかりなのでピキピキとした部分もありましたが、とてもフレッシュで美しい味わいです。こちらを2週間程落ち着かせてから出荷されるそうですが、蔵元皆様の毎日の努力の成果がこの味に反映されていると想うと、感慨深いものがあります。

このヤブタも真っ白な状態が保たれていましたが、白いままに保つのも簡単ではないと言います。ここまでの蔵の中や機器、道具など全てがとにかく綺麗で新築、新品のような状態で保たれていました。悪い菌を抑えるには掃除だけで十分といい、消毒をするとその成分から臭いになる物質が生成されてお酒の味や香りに影響するそうです。後の話で高橋杜氏もおっしゃておりましたが、「掃除は汚れる前にする」ものだと言いますが、それらをやり続けている事には感服するばかりです。そういえば、所どころに用意されていたスリッパも綺麗でした。

本日はここまで、つづく。。

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