酒の勝鬨酒蔵訪問記 京都府伊根町『京の春・伊根満開』向井酒造 2020年2月14日

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 覚悟していたバッシングが始まる。福井駅にて帰京となる社長杉本と峯岸とは別れ、堀口と私は次なる場所へとレンタカー屋へ急ぐ。ほぼ完璧なまでのペーパードライバーである私は、鹿児島出張同じく助手席専門である。となると「ったくよお」と、ドラ専堀口からクレームが入るようになるが、神妙に受け入るしかない。せめてのことは、晴れ男として雨予想の天気が外れることを願うことぐらいだ。

 順調なドライビングで予定時刻よりも早く進み、天橋立をギリギリ確認できる時間に通過したが、海岸沿いの道へと入ってきたころにはすっかり日が暮れていた。しかし道沿いに街灯はほとんどなく真っ暗で、片側は海、反対側は絶壁、さらに道幅も狭いと、あまり経験のない光景を目の当たりにして、これはとんでもない辺境の地へ来てしまったのではないかと、恐怖心すら感じるようなる。しばらくそのような状況が続いたあとトンネルを抜けて、坂道を下ったところまで来ると隠れ里ように家々がやっと現れてきた。われわれが到着したその場所とは舟屋の町並みとして有名な京都府伊根町、そう新たな目的地は向井酒造である。

うっすらと見える天の橋立。伊根町に入ったよ!

向井酒造

宝暦4年(1754年)創業。 伊根湾を囲む海に面した舟屋や伊根ブリで有名な、 京都府与謝郡伊根町にある蔵元。 交通網が未発達の頃は、酒蔵のそばの船着き場から宮津まで船で酒を運んでいた。 日本で海からいちばん近い蔵、そして日本でいちばん狭い蔵として紹介もされている。現蔵元代表は向井崇仁氏(弟)、 現杜氏は向井久仁子氏(姉)のファミリーによる酒造りをしている。代表銘柄には山廃、生もと仕込みと多様な「京の春」と、久仁子杜氏が東京農業大学醸造科学科在学時から温めていたアイデアを実現させた 古代米である赤米を用いた「伊根満開」などがある。

 暗がりのなか、事前に押さえていただいた本日の宿「ムフジュ舞台」をようやく発見し、玄関を入っていくが誰も出てこない。「こんばんはあ」、しかし無反応。呼び鈴のようなものを発見して押してみるが、物音ひとつ聞こえない。最終手段、携帯から電話を入れるとやっとつながり、お母さんが玄関から入ってきた。どうやら道を挟んだ母屋にいたそうだが、今では高齢になった夫婦2人でほそぼそとやる程度で、普段は多くても1日1組くらになので常駐はしていないそうだ。となると、貸し切り状態であるわけだが、不倫旅行と勘違いされたのか、布団がムーディーに設置されており、おっさん2人は苦笑い。

 とりあえず荷物を置き、再びレンタ車でもう少し先にある向井酒造まで移動し到着すると、弟さんで若き社長・向井崇仁代表取締役がやってきた。ではさっそくと、歩いてすぐのところにある「吉村屋」へと食事をご用意頂いた。

翌朝撮った入り口と、ムーディーな寝室。就寝時は別の部屋に離したよ

 吉村屋に入るとパンチの効いたキャラの店主であるお父さんが現れた。予約時間よりも早くに到着したようでちょこっとクレームが入るが、料理はすぐに登場するというアトラクションがありつつ、崇仁さんに用意していただいた「京の春」と一緒にさっそく料理をいただくと、何なんだこの旨さは・・。その日に挙がった魚を振舞ってくれるお任せシステムで、お造り、煮付け、唐揚げ、お鍋など、色とりどりの魚が登場するのだが、どれもこれもが絶品。キャラは濃厚だがお父さんの味付けは実に繊細で、なかでもこの辺ではヨコワと呼ぶマグロの小さいサイズの煮付けがえげつない旨さで、とくに目玉の部分が新鮮で最高だった。

 魚の説明や、伊根自慢をしてくれる父さんのハスキーボイスに耳を傾けながら、吉村屋の料理に合わせて頂く「京の春」がこれまた絶品。山廃、生もと、BY違いなどを常温そしてレトロな燗マシーン「燗ペット」で付けた燗酒と、さまざまな飲み方を試しながらいただく海の幸に、芯の深い味わいのお酒がとにかく合うんだ。改めて思う、地元の食材と料理があってこその地酒であり、「京の春」は伊根の店、家庭、漁師、そして伊根の人たちの酒なのだなと、しみじみと思いながらも酒は進む。

翌朝撮った外観と、全部旨い、魚料理!!

 話も盛り上がり気付けば閉店時間ということで、場所を向井酒造へと移して延長戦。するとここで、お仕事から戻ったお姉さん久仁子杜氏も加わり、一緒に食卓で飲み続きだ。久仁子さんがメーカーと現在開発中という酒粕を用いた調味料を試食したり、地元の伝統料理、そして蔵でしか飲めない秘蔵のお酒などが振る舞われ、お酒と料理で堀口の腹の出っ張りはマックス状態。崇仁社長のジェントルでナチュラルなキャラクターと、久仁子さんのユニークでアグレッシヴなキャラクターのコントラストが絶妙で、すてきな昔話から、ちょいホラーな話しなどで盛り上るが、そのなかでひとつ。

 久仁子さんが大学から戻り蔵の中を掃除していたところ、奥の壁際からお酒が出てきたそうで、見ると昭和60年の生原酒だったそう。蔵人に「なんでこんなところに!」と、なぜ常温の場所に置いていたか尋ねると、ずっと冷蔵室にあって邪魔だったから出したいう。注意するつもりで一本開けて飲んだところ、あまりの美味しさにびっくりしたそうで、あの味がいまだに忘れられないとう。当然今はもう無いそうだが、この日も台所から発掘された平成7年と書かれた「伊根満開」や、11BYの「伊根町 夏の想い出」など、貴重な掘り出し物をお燗でいただくと、ものすごく美味いじゃないか。翌日、あれだけお酒を飲んだのにスッキリと起きられた。お燗のおかげもあるかもしれないが、なんか向井酒造のお酒の底力のようなものを実感した瞬間だった。

 気付けば深夜2時。帰りはお母様に宿まで送っていただき、長い一日が終わりを告げます。

夜の向井酒造と、夜の海。星もいっぱい見えました!

楽しい宴はエンドレス。お母さん夜遅くまですいませんでした!

朝になって気づいた宿のベランダは海の上! 素材感を楽しめる朝食。

途中、漁港に寄りました。昨日食べた魚もある!!

 翌朝、「ムフジュ舞台」のナチュラル味覚の朝食をいただいたあと、向井酒造へ戻るとついに見学の時間がやってきた。重要伝統的建造物群保存地区に指定される舟屋を含む伊根の風景ですが、海側に漁船ガレージが付いた舟屋、道を挟んで母屋があり、要するに一家に二軒の家があるのがスタンダード。向井酒造には漁船ガレージはないですが、やはり道を挟んでの酒造りがされている。

 まずは母屋側には、お酒や土地の名産などを販売するお店と事務所があり、そのすぐ奥には酒造りの場所があるという、ファミリー感満点の構造だ。洗米、浸漬を行う場所のすぐ横に2、3階ぐらいの高さに甑(こしき)があり、その下には冷却器があって蒸したお米が下りてきて、そのまま冷却できるようにコンパクトな設計がされていた。蒸されたお米はエアーシューターで道を挟んだ海側の建物に公道の地中を通って送り込まれるという、大胆な構造。海側に移ると、貯蔵用のサーマルタンク、その奥に仕込タンクなどがあって、この日は三段仕込みの添、仲、留の2段目である仲まで進んだ醪(もろみ)の入ったタンクに先ほどの掛米が送り込まれようとしていた。仕込みが終わった醪は再び母屋側へと送り込まれるが、こちらの使用するホースはかなり高額なもので、全国でも使っている酒蔵は少ないとそうだ。

母屋側に入ると、いろんな商品が売っているお店があるよ!

蒸しあがったお米はすぐ冷却され、蔵人さんが人力で運びます。

道をはさんだ海側の仕込み場へ向かいます。

歴史を感じる建物。窓の外はすぐ海!

シータクシーに乗って、伊根湾をぐるっと一周したよ!スライドショーでどうぞ!

 さて、向井酒造といえば多くの人が「伊根満開」と思い浮かべるとおもうが、現在では他銘柄の10倍以上は出荷されているというほどの人気商品で、その人気は日本に限らず海外でも高く、世界一予約が取りづらいと言われているコペンハーゲンのレストラン「noma(ノーマ)」や、オーストラリアの2星レストラン「Quay(キー)」などでも使用されるほどだ。その人気の秘訣をぜひ見たい!と、思うところだったが、古代米での仕込みは他の仕込みが全てが終了したあとに始まるそうなのと、レシピは門外不出の超極秘ということで、その謎はベールに包まれたままだった。しかし「伊根満開」も毎年試行錯誤の繰り返しから味わいも変化してきたそうで、2年前の造りでようやく思い描いていた「伊根満開」に近づいたではないかと、久仁子杜氏は言います。

最後に記念撮影、お忙しいところありがとうございました!

 しかし僕らはラッキーだった。吉村屋での料理、向井酒造の食卓で飲んだ酒、そしてこの伊根という場所に来れたこと。向井酒造の蔵人は崇仁社長、久仁子杜氏を含めて全員で5人と、少数先鋭による酒造り。久仁子杜氏、崇仁社長の姉弟を中心に、向井ファミリーと蔵人によって作られる「京の春」「伊根満開」というお酒がなければ、恐らくこの地に来ることはなかっただろう。以前も書いたが「地酒」をきっかけにその地に人が訪れるとするなら、それはとても素敵なことではないだろうか。好きなお酒を想い、その町へ行き、海や山、食や生活、そして町の人々に触れる。逆に言えば「地酒」は人と町をつなぐ魅力があるだろうし、日本の色々な場所をもっと近いものにしてくれるだろう。

 小高いところから伊根湾を眺めていたとき堀口が「海外とか行ってる場合じゃねえな」とポツリ。うむ、日本は広い、そして面白い。

 向井崇仁社長、向井久仁子杜氏、お母さんにお孫さん、そして蔵元の皆様方、お忙しい中お時間をいただき、そして楽し時間をありがとうございました。

 最後に、この出張の最大のラッキーは、雨予想を覆したことに違いないだろう。

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